令和7年度入学式を挙行―2239人に入学許可 「はじめの特別授業」も
2025年4月4日(金)、茨城大学令和7年度入学式が、水戸市民会館グロービスホール(大ホール)にて開催されました。学部?学環、大学院、専攻科の入学式を合わせて、2,239人の入学を太田寛行学長が許可しました。
入学式の終了後は、「フレッシュマンサクセス(FS)セレモニー」というイベントも開催。茨城大学の教育のキーワードである「スチューデントサクセス」について、学長と西川陽子スチューデントサクセスセンター長がプレゼンテーション。さらに、各学部?学環の在学生たちが登壇して新入生にメッセージを送ったほか、今年はスペシャルゲストとして水戸市の高橋靖市長も登場しました。
また、初めての試みとして、茨城大学の研究者が大学での学びや学術研究の魅力を伝える「はじめの特別授業」も実施。今年は社会心理学を専門とする人文社会科学野の石井宏典教授が講師を務め、「それぞれの専門性を追求しながら、全体性(自然と人間の営みの全体)を見失うことのない学びの姿勢を」「今日からキャンパスでのフィールドワークが始まります。大学で学ぶことのできる境遇への感謝を忘れずに、一歩を踏み出しましょう」と語りかけました。
今回の入学式とフレッシュマンサクセスセレモニーの模様は動画でご覧いただけます。
学部?学環入学式/フレッシュマンサクセスセレモニー(水戸市民会館グロービスホール)
日時:2025年4月4日(金)11:00~
対象:人文社会科学部、教育学部、理学部、工学部、農学部、地域未来共創学環
大学院?専攻科入学式(水戸市民会館グロービスホール)
日時:2025年4月4日(金)15:00~
対象:人文社会科学研究科、教育学研究科、理工学研究科博士前期課程、理工学研究科博士後期課程、農学研究科、特別支援教育特別専攻科
学長式辞(学部?学環入学式)
茨城大学の学部?学環に入学された1,654名の学生の皆さん、ご入学おめでとうございます。茨城大学の教職員と在学生一同、皆さんを心から歓迎いたします。そして、これまで皆さんを支えてこられた、ご家族の皆様方にも心からお祝い申し上げます。
今日から始まる大学生活は、皆さんにとって新たな挑戦と成長の場です。茨城大学では、皆さん一人ひとりが自分らしく成功できる環境を整えています。知識を深めるだけでなく、自分の可能性を広げることを意識し、積極的に学び、多くのことに挑戦してください。
茨城大学は、国連が2015年にSDGsを採択する前から、「サステイナビリティ学をつくる」を掲げて、その分野の教育研究を始動し展開してきました。その実績を土台にして、間近に迫った2030年に大学のあるべき姿として、"イバダイ?ビジョン2030"を掲げ、「自律的でレジリエントな地域が基盤となる持続可能な社会の実現」に貢献することを目指しています。
私たちは、教職員だけでなく学生の意見も聞いて、"イバダイ?ビジョン2030"を達成するための具体的な12のアクションを策定して、一緒に取り組んでいます。新入生の皆さんも、今日からそのビジョンの達成に向かって、一緒に行動する仲間になってください。その意味で、皆さんにお願いしたいのは、専門分野の学力だけでなく、"サステイナビリティ"の基本概念や思考を学び、世界を広い視野で捉える力を身に付けることです。本学は、そのために、学問分野を横断して学際的に学べる"プラス?アイ?プログラム"と、キャンパスを飛び出して国内外の人たちと交流できる学外学修の"インターンシップ?オフキャンパス?プログラム"、iOPを提供しています。是非、積極的に挑戦してください。
もう一つ期待することは、大学での学びや活動、そして交流を通して、皆さん一人ひとりが「なりたい自分」に向かうことです。自分の強みや自分の価値観を活かしながら成長することです。この「なりたい自分になる」ことを、私たちは「スチューデント?サクセス」と呼んでいます。みんな同じではなく、個性豊かに成長することが、多様性を包摂する社会づくりに貢献し、現代社会の課題解決に結びつくと、私たちは考えています。
今、私たちの社会は、経済?技術が成長し、人口が増加していた時代から、経済?技術の低迷と人口減少の時代に移りました。私たちは、その時代の移り変わりに対応できずに、多くの課題を抱えています。私が考える一番大きな問題は、私たちの脳や感覚が、経済成長と人口増加の時代のままであることです。そのひとつが、能力成果主義、いわゆるメリトクラシーです。すなわち、客観的な「成果」や「業績」にあらわれる能力を、その人の価値と捉え、称賛する考えです。その根底には、「努力と才能があれば何にでもなれる」、「能力を高め、成果を出す機会は平等にある」というアメリカンドリームのような素朴な能力観があるといえます。
皆さんは、「何かを成し遂げた人は、努力と才能の証」、「何かを成し遂げなかった人は、努力と才能の欠如」という感覚や考え方に疑問を持ったことはありませんか? 「疑問」とまでは言わないまでも、何か「違和感」を感じたことはありませんか? その疑問や違和感の根本にあるものとして、政治哲学者のジョン?ロールズは次のように看破しました。
「才能や資質も、生まれ、容姿、人種などと同じで、本人に選べるものではないのだから、『成果』で人の価値を計るようなことはすべきではない」。[1]
そして、アメリカンドリームの結果である、貧困と格差の固定の問題にメスを入れるかのように、「実力も運のうち 能力主義は正義か?」の著作で知られる マイケル?サンデルも、「能力成果主義は、不平等の解決ではなく、不平等の正当化である」[2] と見抜きました。
私が、先に述べた「なりたい自分」は、測定可能な成果や能力で捉えるものではありません。なので、みんな同じではなく、周囲を気にせず個性豊かに成長して欲しいのです。
ひとつ気がかりなことがあります。翻訳家でエッセイストである鴻巣友季子さんが指摘するように、私たちは、メリトクラシーからなかなか脱せないことに加えて、現代社会は情報過剰社会であり、いわゆる"アテンション?エコノミー"が急速に広がっていることです。[3] 私たちの多くは、「内容の正しさ」よりも「人々の関心?注目」に経済的価値があると思い込む妄想を作っています。そのため、「いいね!」の数だけが価値をもつ世界で、私たちは、他者と自分と向き合い、対話し、その価値を吟味する時間を失いつつあると思います。
もう一度確認しましょう。大学は、多様な知識、考え方、文化、そして多様な他者と出会い、対話できる場です。そして、その学びと出会いと対話から、単なる共感ではなく、共存を意識できるような他者への理解から、「なりたい自分」を、試練を重ねながら磨く場です。
以上をもって入学式の式辞といたします。
本日は、入学、誠におめでとうございます。
令和7年4月4日
茨城大学 学長 太田寛行
[1] 鴻巣友季子、「文学は予言する」(新潮選書、2022、新潮社)、p. 84.
[2] マイケル?サンデル、「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(鬼澤 忍 訳、2021、早川書房)、p.180
[3] 鴻巣友季子、同上、p. 270-279.