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茨城の畜産業界における産官学交流の場「茨城大学地域畜産交流会」が発足!
―第1回講演会に卒業生ら多数集う

 茨城大学は茨城県の畜産業の産官学交流の場として、「茨城大学地域畜産交流会」を新たに発足させました。生産者や関連企業と大学との共同研究や学術コンサルティング、社会人教育などを推進し、茨城県の畜産業の発展と参加者同士のより良い関係構築を目指します。その初回の会合となる講演会が314日、茨城大学阿見キャンパスフードイノベーション棟霞光ホールにて開催され、畜産業界で活躍する卒業生や関係者が参加しました。

交流会の様子

 全国有数の農業県である茨城県は、畜産も盛んです。茨城大学農学部を卒業し、畜産関係業界で働く方もたくさんいます。ただ、これまで、地域の畜産についての研究や学びを深める場として、生産者とメーカー、行政、研究者(大学)がひとつの場で交流するような機会はあまりありませんでした。こうした背景から、農学部の豊田淳教授が発起人となり、地域のハブとしての機能をもつ大学を拠点に、広く畜産業関係者が集まって意見を交換し、トレンドを学び、今後取り組むべき問題を考える場として「茨城大学地域畜産交流会」を設立することとなりました。

 

cow_04.jpg 茨城大学阿見キャンパスで飼育されているウシ

 交流会では参加者の関心の高い話題の専門家を講師に招いたイベントを、年に1回程度開催します。第1回は、茨城県畜産センターの職員による情報提供や、茨城大学農学部の先生方による講演などを行いました。

 茨城県畜産センターからは、茨城大学農学部の卒業生の2人が登壇。茨城県が誇る銘柄牛「常陸牛」と、同じく銘柄豚ブランド「常陸の輝き」について、遺伝子と肉質の関係や、肉質の改善などについてお話がありました。

茨城県畜産センターの2人の写真

 続いて、農学部の岡山毅教授が「3次元計測で切り拓く畜産DX」と題して講演しました。岡山教授は「私は畜産の専門家ではないことを強調しておきたい」と前置きし、「イメージをどう他人と共有するか、という話です」と切り出しました。まず、鎌倉時代に描かれた国産牛の図説「国牛十図」を用いて「こういった、絵と言葉というのは、イメージの共有において非常に強力です」と説明しました。
 畜産業界において、イメージの共有は大切です。例えば黒毛和種の審査標準項目。いくつもある項目のうち、「体積」には、「月齢に応じた良好な発育をし、体躯広く、深く、伸びよく、体積豊かなもの」とあります。岡山教授は、体重や体高を数値で示す1次元、画像で表す2次元のほか、「『体躯広く、深く、伸びよく』というのは、3次元的な表現ですよね。3次元計測は畜産分野と相性が良いんじゃなかろうかと思いました」と3次元でのイメージ共有が有効だと語りました。
 岡山教授の研究室では、農学部で飼育する黒毛和種を生後3日目から出荷する288日目まで、3次元カメラで月に一度撮影し、3次元データを取得しました。これにより、体型変化の過程や発育状況などが見られるようになりました。例えば、生まれてから出荷までに腹幅がどのように育ったのかを立体的に確認できます。「これらは手で測ることができますが、めちゃくちゃ大変です。今は3Dスキャナ搭載のスマートフォンもあります。色々組み合わせて、気軽に測ることができます」と利点を説明しました。

岡山先生の写真

 農学部の小針大助准教授は、「アニマルウェルフェアの動向と畜産」について講演しました。「アニマルウェルフェアは5千億円の市場規模になるだろうと予測され、今とても注目されています」と話し、対応が求められていることを示しました。
 アニマルウェルフェアとは動物が健康で幸福で幸運である状態で、指針として①飢え?渇きからの自由②痛み?負傷?病気からの自由③不快からの自由④本来の行動できる自由⑤恐怖?抑圧からの自由―の「5つの自由」があることを紹介しました。
 小針准教授は、「必ず『動物愛護と同じだろう』という指摘が出ますが、実は違う」と強調し、動物愛護は動物がどんな状態であろうと、可愛がり保護することを求められており、人間主体の考え方であることを説明しました。

 小針准教授の話が終わると、岡山教授が「ちょっと現場の意見も聞きたいな」と促し、畜舎メーカーで働く卒業生の話を聞くことに。卒業生は、「ちょっと僕の感覚では、現場と乖離しすぎているかなと...」と率直に感想を述べます。「そもそも事業形成が難しい中、アニマルウェルフェアを訴求するのは難しい」と、生産者と関わりが深いからこその意見が飛び出しました。小針准教授は、「施設を建て替えろとか、面積を広げろとか、そういうことではありません。動物のためにやるべきことをやって、きちんと管理してくださいね、ということ。『何か特別なことをしないといけない』、そういう誤解が、乖離を感じる原因じゃないかな」と応じました。

小針先生の写真

 吉林農業大学の秦寧准教授は「Study on the Regulatory Mechanism of Follicular Granulosa Cells Development in Chicken」をテーマに話しました。秦准教授は大久保武教授の研究室で訪問研究者として研究しています。

秦先生の写真

 初回の会合を終え、発起人の豊田教授は「畜産に関連する仕事に就いているOBがかなり集まってくれ、情報交換も活発だったのでまずは成功。ただ、生産者の方に集まっていただくのが難しいとも感じた。次回以降に向けて、茨城県などと相談し戦略を練りたい」と振り返ります。今後は「ITや化学などの業種ながら畜産部門もあるといった企業へも声を掛け、幅広いテーマについて議論できる場にしたい」と展望を語りました。

(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)